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【初等・中等】国語専攻【学年問わず】
[603]名無しさん@愛教ちゃんねる:2007/12/17(月) 22:08:22
国語科によるエッセイ。
「あの日もここではみ出しそうな 君の笑顔を見た」という出だし。
あの日という時間、ここという空間。一致しているのは後者のみ。
あの日「も」、つまりは今も。
主体は今、思い出の場所に立っている。そして強く思い出す、「君」の笑顔を。
思い出すことと、実際に目にすることは、もちろん違うのだけれども、
その追体験は、あまりに強い印象から来るものなので、「も」と並列されるのに十分だ。
顔からはみ出しそうな笑顔。単なる物理的・視覚的な表情を超えて、
心情に訴えてくる、気持ちに響いてくる、そんな表情。
楽しかった思い出の場所に、もうその時間は流れようもないのだけれど、
せめてもう一度同じ場所に一人で行って、思い出す。
それは悲しい営み。しかしそうせざるを得ない必要な営み。
あえてする追体験が生み出す悲しみ。でもその悲しみさえも、
今は抱きこんでいたい、という思い。
この一行で一気に読者が詞の世界に誘われる。
「水の色も風のにおいも 変わったね」という続き。
風景は、見る人の気持ちによって、その見え方が変わる。
主体の中で、気持ちのスイッチが入る一瞬に、的確なスポットが当てられている。
「色」という視覚、「におい」という嗅覚。内面を含めた身体全体としての変化。
最後の「ね」が喚起する同意、「変わった」という自分の実感、それは相手も同じであったのだと、思いたい。
ここは川辺か海辺か。やわらかい風が吹いている。主体は今、一人でそこにいる。
心を象る、珠玉の言葉。
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